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マチノギモン第18回 「街のゴミ箱」
(AXIS vol.126 2007年4月号)
街を歩いていて、ゴミの捨て場に困った経験を持つ人は多いはずだ。ふと見渡してみると、大勢の人が行き交う都心でさえ、ゴミ箱は驚くほど少ない。
 街にゴミ箱が少ないのはどうしてなのか?1995年の地下鉄サリン事件、もしくは2001年の9.11同時多発テロ以降、不審物、危険物対策としてゴミ箱が街から姿を消したと見る向きは多い。確かにそれにも一因はあるようだ。しかし、街からゴミ箱が撤去されたのには、もう1つの理由がある。それは、ゴミ箱を設置することで莫大な維持管理費がかかるためである。渋谷駅前、3ヶ所に設置されたゴミ箱を管理する東京都渋谷区を例にとると、定期的にゴミ回収したり、落書きを消したりというコストだけでも、年間1800万円かかっているという。高度経済成長を遂げた60年代以降、日本は大量生産、大量消費、大量廃棄型社会となり、ゴミの排出量が著しく増加した。ゴミは大きく2つに分けられる。工場が出す産業廃棄物と個人が出す一般廃棄物である。現在、日本人1人あたりが出す1日の一般廃棄物量は1kg以上といわれる。
 東京都の場合、街中のゴミ箱の管理は、区や市などの自治体が行っているものもあれば、敷地やビル、道路の所有者である企業や個人が行っているケースも多い。自治体が管理するゴミ箱の場合にも、それを取り仕切る部署は一様ではない。千代田区は区内に1台もゴミ箱を設置しておらず、これを管轄する部署も無い。渋谷区内には、渋谷駅前や表参道に数台ずつゴミ箱が設置されているが、前者を管轄するのは同区土木部道路課、後者は都道となるため都の管轄となる。
 ゴミに関連、特化したさまざまな事業に70年代初頭から取り組んできた環境機器メーカー、アートファクトリー玄(東京都渋谷区)の代表、杉村総一郎氏は語る。「そもそも街の中でゴミを捨てるという考え自体が、21世紀においては身勝手な発想だと思いますが、公共空間に設置されるゴミ箱のあり方が問われているのも事実です」。
 同社では、年間20万台から30万台の、いわゆる「ゴミ箱」を製造し、その企画、デザイン、設置に携わっているが、同社ではこれを「リサイクルボックス」という名称で扱っている。理由は、ゴミ箱という概念が時代とともに変化してきているためだ。そこには、「汚いもの、いらないものを隠す場所」という従来の「ゴミ箱」という言葉が持っていたニュアンスだけではなく、「資源、素材を循環させるための入り口」という意味が込められている。捨てる神あれば拾う神あり、ということか。日頃、われわれがいらないと思っているゴミは、資源、素材として十分に有効活用できるものが多くあり、企業にとっても、環境問題へのエクスキューズとしてではなく、再製造に利用できるなど、経済的メリットを得ることができる要素を多分にはらんでいる。
 そして、そんなリサイクル社会で重要になってくるのが、街中にあるゴミ箱となる。では、そのゴミ箱(リサイクルボックス)のデザインをするうえでの課題は何か?
 「資源として再利用するためには分別率をいかに上げるかということが大事になってきます。片手でも届く範囲で分別できるようにするなど、細かいデザインのノウハウはいくつかあります。しかし、いちばんの課題は、いかに存在感を持たせるか、ということです」と杉村氏は語る。同社が行ったリサーチでは、質感の高い“かっこいい”デザインの施されたゴミ箱の方が、分別率が高くなる傾向が見られた。ゴミの分別というものの判断を、不特定多数の人に瞬時に行ってもらうためには、人間の行動心理を利用したデザインが重要となる。
 デザインが分別率を高め、ゴミが経済的価値を生むというのであれば、われわれはもう一度ゴミの流れを捉え直し、公共のゴミ箱のデザインと配置を考え直す必要があるかもしれない。しかし、それでもなお、ゴミ箱がリサイクルボックスとして完全に機能するまでには、個々人のゴミへの意識の変化を待たねばならないだろう。

(文/鈴木隆文)

1  散乱ゴミのひどい時代、70年代に活躍したゴミ箱「コレクタ」。観光地にも多く設置されたが、上部のサインがあるだけで、ゴミの収集率が著しく向上したという。
2  80年代によく見かけたD-100型。
3  表参道沿いにあるゴミ箱(リサイクルボックス)
4  神戸市北野異人館通りにて。街の景観を考えたデザイン。
5  東京・世田谷の国立成育医療センター内。子供たちが抱きつくという状況すら生まれたというカラフルなゴミ箱。
6  羽田空港にて。空港のゴミ箱は国際性が求められる。

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