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景観調和と街の楽しさとは何か
(自販機リポートVEND 平成18年1月刊 第29号)
わが国初の景観に関する総合的な法律、景観法が平成16年12月17日に施行された。以来、自販機を含めたあらゆる街の構成物は「美しい街づくり」の視点からそのあり方を見直されている。そもそも景観調和とは何か。何を残すべきで何を変えるべきか。美しい街とは何か。今後の景観調和のあるべき姿について探る。
  
出席者 杉村荘吉 パブリックアート研究所 代表理事
杉村総一郎 アートファクトリー玄 代表取締役
聞き手 神子久忠 日刊建設工業新聞社 編集部長

街の魅力の再発見が美しい景観の第一歩

神子 平成16年12月17日に景観法が施行されてから1年余りが過ぎました。改めて立法の主旨を振り返ってみますと、同法第一条に、その(目的)が、こう記されています。
 「第一条 この法律は、わが国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、美しく品格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする。」
 「良好な景観の形成」が法的に位置づけられたことは、わが国において、まさに画期的な出来事といっていいでしょう。これまで景観の問題は、常に野放しにされたきましたから。その結果、ゴミのポイ捨て問題等も含め、景観の荒廃がいたるところで見受けられるようになってしまった。これじゃ、いけない。このままでは、景観も人心も荒廃する一方だ、という危機感の高まりが、景観法制定に結びついたのだと思います。景観を、みんなのもの、パブリックなものとして認識し、協力して育んでいこう、という意識が生まれてきたこと、これが重要です。
杉村(荘) そうですね。それだけに「良好な景観の形成」を考えるときに大切なのは、決して全国一律の規範を押し付けないことです。重要なのは、個性的な景観づくり、「おらが街」の魅力を前面に打ち出すことです。
 実は、私どもの社名にもなっている「パブリックアート」というのは、狭義に解釈すれば、美術館から出て街角に進出した芸術作品(主として現代彫刻)のことを指しますが、こういった動きも街づくりとの関連で生まれてきたものなのです。そもそも中世以前のヨーロッパでは芸術と一般社会は切っても切れない結びつきを持っていたわけですから、いわば「芸術の再社会化」運動ともいえます。日本では、ここ十数年間活発化してきました。
ただ、今でこそ笑い話ですが、当初は「ヘンリー・ムーアやロダンの彫刻でも置いておけばいいんじゃないか」といった声も多かったんです。バブル崩壊までは、明治以降、欧米列強に「追いつけ追い越せ」一辺倒でやってきた癖がなかなか抜けなかった。(笑)
神子 ははは、わかります。
杉村(荘) でも、こんなのばかりじゃ大衆は愛着を感じません。もっと日本の足元を見てみようじゃないか、ということになって、アートをどう街づくりの中に生かすのか、という議論を深めていくことになったわけです。よくよく考えてみれば、アートとは人の心を表現する技術。そして街づくりも、その街に生きる人々の心を表現することですから、その街、地域に見合ったアートというものがあるはずなんです。京都、遠野、東京で、それぞれ求められる景観が違うのは当然で、であれば、それぞれに魅了されるアート、街づくりがあるはずだと。
神子 そういう意味では、景観法には「景観計画区域」、「景観重要建造物」、「景観重要公共施設」、「景観地区制度」など景観整備にかかわる様々な概念や規定が盛り込まれていますが、まずは地域の住民を中心に、「おらが街」の魅力は何なのか、といいた大きな議論をみんなで行い、その街の魅力を再発見していくことこそ大切なのでしょうね。
杉村(荘) ええ。私は、21世紀の日本に大いに期待しているんです。江戸時代の大江戸八百八町が大衆レベルで世界一の豊かさを誇る都市だったように、日本全体が大衆レベルで世界一の豊かさをたたえた国になるだろうと。東南アジア諸国ばかりでなく、欧米からも日本の都市はなぜ豊かなのか視察に来るでしょう。そのとき、世界に自信をもって発信できるような、豊かさに相応しい景観づくり、街づくりを今から考えていきたいものです。

これからの自販機設置は発想の転換が必須

神子 さて、そういった景観法時代にあって、自販機はどういう方向に進むべきなのか。自販機コーナーの企画設計で自販機ロケーション大賞・準大賞(日本自動販売機工業会選定)を幾度も受賞されている「アートファクトリー玄」社としては、どうお考えですか?
杉村(総) 今までは、景観が語られるとき、自販機は半ば日陰者のように(笑)、「抑制型」で語られてきたと思います。ビルの色に合わせろとか、限られたスペースで我慢しろといった具合に、抑制する方向でばかり語られてきた。早い話、建物を設計する際、自販機を置くだけのスペースがくり抜いてあれば、それでよい、というのが実情でした。自販機業界の側にも、止むなく置かせてもらえればよし、と考える傾向があったのでしょう。
杉村(荘) そういう自販機コーナーというのは、あまり居心地のいいものではないんですね。私が数年前、病気で入院した病院の自販機コーナーも、薄暗い手狭な場所にちょっと椅子が並べてある程度で、患者さんが3名ほど冴えない顔で一服していた。(笑)レストランなどの休憩室とは大違い。

杉村(総) これからは発想の転換が求められますね。自販機を置かせてもらう、置かせてあげる、というのではなく、自販機を設置することによって、その空間・地域にどんなプラスアルファの価値をもたらすことが出来るのか、そこをロケーションオーナー、業界、地域住民らが一緒になって考えていくことが必要でしょう。
私どもが自販機コーナーを企画設計する上で最も重視している点も、まさにそこです。エンドユーザーの人々が、その場所をどんな具合に使っていて、どんな潜在的な要望を持っているのか。そこを徹底的に探ります。2年前にロケーション準大賞をいただいた「ダイヤモンドシティCARAT ベンダーコーナー」の場合、親子連れが楽しみながら休憩できるスペースが求められていることがわかりました。そこで、ベンチとしても使用できるカラフルなサイコロを用いて、ウキウキ感を表現したところ、お子さんたちから「面白い」と評判を呼んで、売上増にも貢献することが出来ました。
神子 今年は、一転して、芭蕉をモチーフに準大賞を受賞されましたね。
杉村(総) ロケーションオーナーは川崎市住宅供給公社。依頼のあった建物の敷地が芭蕉ゆかりの地に近いことから、「芭蕉ポケットパーク」と題した自販機コーナーを設けました。芭蕉の句碑にも見立てられるように。これなどは、利用者にとって「歴史の再発見」にもつながり、風景がこれまでと変わって見え、意味のある空間になったのではないかと期待しています。
神子 自販機は、いわゆる三種の神器ブームの後、日本人が求めてきた豊かさを代表する物質文化ともいえますね。それだけに、個々の消費者のニーズが多様化する中、あるいは情報化社会が急速に進展する中、自販機に目を向ければ相当、埋もれていたニーズや街づくりのアイデアが発掘できそう。
杉村(総) ええ。そもそも屋内外合わせて260万台もの清涼飲料自販機が必要とされた背景には、飲むこと以外のさまざまな潜在的ニーズが働いているはずなんです。ですから、自販機は飽和状態にある、などと言われたりしますが、とんでもない。場所や時代、利用者層にマッチしたくつろぎの空間、にぎわいの空間さえ開発できれば、まだまだ伸びていく余地は十分にあります。そうなれば、業者側の都合で撤去しようとしても反対運動が起こるようにさえなるかもしれない。(笑)
ダイヤモンドシティCARAT
芭蕉ポケットパーク

自販機業界は街づくりに積極的に関わるべき

杉村(荘) 日本の自販機が景観問題で云々されるのは、おそらくこれほど屋外で発達した国が無いからでしょう。屋外設置だけで、清涼飲料が150万台に、タバコが40万台ですか。その他も合わせると屋外だけで250万台ほどの自販機が設置されているという、こんな国はほかにありません。
神子 ありませんね。
杉村(荘) 日本でなぜ屋外で発達したのか。理由は主に二つあると思います。ひとつは、治安上の問題。もうひとつは清潔さ。幕末明治の頃から、日本を訪れた欧米人は、一様に日本の街の清潔さを讃えていますね。ともに、わが国の街づくりにおいて世界に誇るべき美徳でした。ただ、最近、薄れてきたのは残念な限りですが。
神子 そうですね。
杉村(荘) とはいえ、こういった安全・清潔が保たれているからこそ、われわれは自販機に「ホッとする」憩いを感じるのであり、それが、ひいては先ほど話に出た「おもしろい」と感じる心の余裕を支えるのだと思います。ですから、本当は屋外設置の自販機が多いことは、むしろ喜ばしいことなんです。そもそも、飲料自販機などは24時間の常夜灯としても地域の防犯に寄与しているわけですし。
神子 かつては、それがエネルギーの無駄遣いのようにいわれましたが、最近は、むしろ、防犯の観点から自販機を積極的に評価する声が高まってきていますね。
杉村(荘) そうでしょう。
杉村(総) 実際、子どもたちの登下校を見守るプロジェクトとして,自販機に監視カメラを付けたり、インターネットと連動して位置確認をするシステムを組み込むなど、そのあたりの実証実験も活発化してきたようです。
神子 実は、ここ数年、自販機の社会貢献度は高まっている。
杉村(総) ええ。省エネ努力による地球環境への貢献はもとより、電光表示板付きの災害対応型ベンダーも登場しましたし、事故・事件発生時の110番・119番通報を助けるため自販機に住所表示ステッカーを貼り付ける動きも全国化しています。自販機はハード面を見る限り、ここ10年で格段に社会への貢献度を高めたといっていいと思います。ただ、その持てる能力を街づくりに積極的に活かせていない。ソフト面での働きかけが弱い気がします。そういう意味では、業界の方々が、もっと街づくりに積極的にかかわれるよう勉強する必要がある。
神子 ロケーション大賞なども、われわれ一部の人間しか知りませんからね。自販機業界は、もっと社会に向けてアピールしなくちゃいけないなあ。(笑)
杉村(総) ビルなどの建物にしても、自販機の側から空間設計全体にかかわる提案を行うようになれば、より「良好な景観の形成」に役立つはずです。

街づくりをめぐり意見を交わすこと自体が大切

杉村(荘) 「自販機は地域の空間に欠くべからざる社会的な装置、道具である」という認識に立ったプロデュースの仕方が、業界に求められているということでしょうね。それも、個々の街並みや建物に個性的な彩りをもたらすものとして。先ほどお話した病院の自販機コーナーみたいに、わびしくなってしまうものではなくてね。(笑)利用者が「こんな自販機空間がここにあってよかった」と魅せられるほどのチャーミングな存在を目指してほしい。
神子 確かに、自販機は空間開発の軸となる要素を持っています。問題は、それを誰がどのように進めていくか。やはり、行政、住民、その他都市空間開発に携わるさまざまな人々とのコラボレーションによって進めていくのがいいのでしょうね。
杉村(荘) そうですね。先ほどの防犯対策の話にもあったように、もはや自販機には、業界の利害を超えて、公共財的な社会的役割が期待されているわけですから、業界の中だけで論じるのではなく、一般社会のほうにどんどん出て行かなくてはいけませんね。ちょうどアートが美術館から出て街角に進出していったように。私は、21世紀の日本というのは、個人であれ会社や地域社会であれ、ほかと違う個性的価値を持ったものが互いに価値を交換することを奨励する社会になっていくと思っているんです。そういう意味でも、街づくりをめぐって、いろいろな立場から意見を交わしていくことは、それ自体が大変意味のあることになるのではないでしょうか。
杉村(総) 地域で協力して新たな価値を創出する事例といえば、横浜の元町商店街のケースが思い浮かびます。ここでは、商店街の全店舗に酸素吸入器を設置する運動を推し進めているそうです。景観問題とは異なりますが、これも「来訪者の健康面での安全」を切り口にした立派な街づくりです。こういったプラスアルファの価値をどう創出するか。そういった議論を活発に展開していってもらいたいものです。
神子 というわけで、自販機業界の今後に一同大いに期待しております。


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