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動く芭蕉さん 本当だった! 隅田川沿いブロンズ像 特集「東京ミステリー」 より
(東京新聞 平成15年12月20日)
※アートファクトリー玄が製作設置した江東区芭蕉記念館分館の「松尾芭蕉」像が紹介された記事です。

 東京都観光汽船の水上バス客室乗務員・佐々木克恭さん(43)は、テープ放送の代わりに隅田川巡りの観光案内を始めたことし五月の夕方、いつも通り芭蕉像を案内しようとしてギョッとした。昼間、川上を向いていたはずの像が方向を変えて河口を見つめていたのだ。「目を疑いました。最初は同僚も信じてくれなかった」
 都営地下鉄新宿線・大江戸線の森下駅から歩いて約十分。石階段を上り分館の小公園に着くと、座布団に座った姿勢のブロンズ像がこちら向きに出迎えた。芭蕉の門弟・杉山杉風(さんぷう)が描いた絵を立体化し、高さ約1.2メートルで、台座(約1.2メートル)に乗っている。1995年4月に完成した。
 公園は隅田川と小名木川に面し、清洲橋を望む、かつて芭蕉庵があった場所。川には水上バスが行き交い、屋形船も多数繰り出すなど下町情緒があふれている。
 “それ”は、夕方に起きるという。しのつく雨の中を待っていると、午後4時半、記念館の担当者が現れ、規則通りに公園の扉を閉じた。
 とっぷりと日も暮れた5時、ガタっと音がした。2つの照明灯がつき、雨にぬれた芭蕉像が、下からてらてらと照らされた暗闇に浮かび上がった。ちょっと不気味だ。
 像はゆっくり回転し始めた。かすかなモーター音が聞こえる。約15秒かけて像は左回りに約45度動き、清洲橋方向へ顔を向ける位置で止まった。芭蕉が動くといううわさは本当だった。

昼は川上を向き
日中、清洲橋に横顔を向ける
夜は河口見つめ
午後5時過ぎ、清洲橋のある隅田川河口方面へと回転した
「夜になると、芭蕉さんの像が向きを変える」「立ち上がって座り直すに違いない」「不気味」―。そんなうわさが、隅田川沿いの芭蕉像をめぐって交わされている。江東区芭蕉記念館分館(同区常盤1)にあるブロンズの芭蕉像。江戸前期、漂泊の詩人として日本中を巡り、紀行文「おくのほそ道」などをしるした俳人・芭蕉。その像の“真相”を探ってみた。

 「手動ではないし、まして芭蕉像が立ち上がるわけでもありません。タイマー付きの電動仕掛けなんです」と、同記念館の横浜文孝次長が笑って種明かしした。午後5時になると河口を向き、同10時になると公園入り口方向へ戻る。なぁーんだ、分かってしまえば単純だ。しかし、最初に誰が思いついたのだろうか?

 像の製造・管理を担当している景観デザイン会社「アートファクトリー玄」(渋谷区)は、「コンペの提示価格が他社より安かったので、担当した」と説明する。“回転する像”はその時、既に条件に入っていたのか?
 「ええ。デザインの絵と動く像は、最初から決まっていました」
 「風や水で動くオブジェの経験があったが、動く像なんて初めてだった」
 技術的には「像が150キロ以上と重いので、モーターの選択に気を使ったくらい」とそれほど難しくなかったという。しかし「いまだに動く人物像は、ほかでは聞いたことがありません」。

 コンペの条件だったとなると、アイデアは記念館か、所管の江東区教委から出たはず。現在の館員には詳しい事情を知る人はおらず、当時の担当者には退職した人も多い。ようやく、当時、生涯学習課長だった城東清掃事務所長・吉田好太郎さんを探し当てると、「はい、私が考えました」とあっさり認めた。
 「分館は午後4時半に閉館しますが、川からよく見えるいい場所なんです。せっかくだから夜間にライトアップして、川に像の顔を向けたいと考えました。それには回転させるしかなかった」と、吉田さんは振り返る。区の営繕担当者に電動で回すことが可能と確認し、発注条件に“動く”ことを加えた。
 物珍しかったのか、完成後数ヶ月して、地元の子どもらが無理やり手で回転させようとして、仕掛けを壊すというハプニングもあった。「手動と勘違いしたのでしょう」
 動く像とは、まさにコロンブスの卵。アイデアがひらめいた時はうれしかったのでは?
 「いえいえ。珍しいかもしれませんが、仕事だったし、そんな大げさことではないんです」と照れたように話した。
 夜間閉園のため、像が動くところは公園内では見られないが、隅田川沿いの遊歩道から見られる。問い合わせは同館=電03(3631)1448=へ。


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